苗栗|油桐花坊 山に降る白い雪 幸せのアブラギリの里
省道、台六線を進みながら、苗栗の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。曲がりくねった山道に入ると、アブラギリの花が「5月の雪」を降らせていた。白い花びらがひらひらと舞い落ちる。緑に包まれた道を通り過ぎ、山あいの美しい場所にたどり着いた。民宿「油桐花坊」では、優雅な大自然とおいしい料理の間で幸せなひと時を過ごすことができる。
アブラギリの木の下で山に囲まれたアフターヌーンティーを
目の前には、緑のグラデーションが織りなす景色が広がっていた。園内中央では、高くて大きな一本のアブラギリの木が静かに枝を伸ばし、日の光を気持ちよさそうに浴びている。白い花びらで隙間なく埋め尽くされたウッドデッキに足を踏み入れると、あたかも雪道を歩いているかのように思えた。アブラギリ、フカノキ、クスノキ、チャノキ…一本一本の木の間を縫うように歩きながら、風が木の葉をなでる音と虫の鳴き声に耳を傾ける。まるで森の中の協奏曲を聞いているかのようだ。
昼下がり、四方をガラスに囲まれた小屋でアフタヌーンティーを楽しむ。新竹で有名なRTケーキをはじめ、パンナコッタに新鮮な果物など、好きなだけ堪能できる。温かいお茶を飲みながら、のんびりと一息。室内でも屋外でも、もちろんアブラギリの季節でなくとも、四季折々の景色を楽しむことができる。春は新緑、夏はアブラギリ、秋は紅葉…。霧に包まれた冬の山もきっとまた風情があることだろう。
木の香りの中で楽しむ客家創意料理コース
3階建ての木造小屋の中に入ると、木の香りに包まれ、疲れが一気に癒される。客室には重厚感のある木製家具が並べられており、アンティークのランプとよくマッチしている。また、全ての客室にカプセルコーヒーメーカーとRTの手作りクッキーが用意されているというからうれしい。小上がりの和室スペースやロッキングチェアもある。窓からは山と木々を望むことができる。ベランダに置かれたハンキングチェアに揺られながら、自然の空気を味わうのもいい。浴槽に浸かってリラックスするのもおすすめだ。家族や友人たちと一棟まるまる貸切ることもできる。最大宿泊人数は20人だという。1階の交流スペースではカラオケが楽しめ、3階のリビングではソファでおしゃべりしたり、ボードゲームで遊んだりできる。
一泊三食付きの油桐花坊。一番の楽しみは、なんと言っても地元食材を使った客家風のコースディナーだろう。甘酸っぱいナツメのお酢を食前にいただけば、豪華な食事の幕開けだ。レンコンで包んだ客家の仙草は口の中に甘さが広がる。特製の柑橘ソースでいただく野菜のせいろ蒸しは見た目も味も楽しめる。客家料理「豆乾鶏スープ」は独特な味わいだ。カリカリのパンに包まれたリゾーニはイタリア風味。こんがり焼かれたアユに、メインディッシュの和牛の炙りははずせない。最後に柔らかい杏仁豆腐をいただきながら、オーナーの李さんのコレクションであるワインで最高のフィニッシュを迎える。一般的な山料理とは一線を画した油桐花坊の料理の数々。西洋の調理方法と客家や台湾の食材が見事に融合された優雅で素敵なディナーだ。
台湾のアブラギリを世界へ――仕掛人の李董事長
朝、豊富な朝食が並べられたテーブルを山の風が吹き抜ける。ある年の夏、李董事長は故郷の美しい景色を生かした民宿を始めた。ちょうどそのころ、政府機関の客家委員会もアブラギリを目玉に観光振興を図ろうとしていたこともあり、油桐花坊はたちまち人気宿となった。上品な白髪をたくわえた李董事長が台湾の5月のアブラギリを広めた仕掛人といわれる所以だ。客家人のおもてなしの心を持つ李董事長。だが実は、台北の西門町育ちだ。心の中ではずっと静かな自然に囲まれた生活がしたいと願っていた李董事長は、お父さんの建設事業を引き継いだ後の2000年、多くの人がまだアブラギリを知らなかった頃、この台湾最大といわれるアブラギリの木に目を付け、民宿を建てた。そして、一泊三食付きのツアーを打ち出し、多くの人々にアブラギリの魅力を伝えている。
「台湾には他国より優れた魅力がたくさんある。角度を変えて、海外から観光客を引き寄せることができれば、台湾の人々も自信を付けられるはずなんだ」優しく温かい李董事長は、世界中の旅人に呼びかける。この5月の雪が舞う静かな山で、美しく素晴らしい休暇を過ごそうと。